レースや記録会に出場するとき、「最適なペース配分が分からない…」ということありませんか?
前半から速いペースで走るべきなのか、後半まで体力を温存しておくべきなのか、イーブンペースで走るべきなのか…迷いますよね。
そこで今回は、長距離走での最適なペース配分について解説していきます。
結論
結論、長距離走では一定のペースで走るよりも、序盤にペースを上げて走るとタイムが縮むことがあると言われています。
なぜ序盤にペースを上げることでタイムが縮むのか?詳しく解説していきます。
科学的に正しい長距離走のペース配分とは?
長距離走のペースについて尋ねて、「焦らず自分のペースでゆっくり走れば良い」というアドバイスをされたことありませんか?
たしかに、競技初心者にはこの解答がベストなのかもしれません。
ですが、ある程度のレース経験があり自己ベスト更新を目指しているランナーには必ずしも適切であるとはいえません。
このようなランナーに対して、科学ではよりハイリスク・ハイリターンな方法が提唱されています。
それこそが、序盤にペースを上げる走り方です。
ニューハンプシャー大学の研究
参考となるのが、2006年 ニューハンプシャー大学 運動生理学者のロバート・ケネフィックらの研究です。
ケネフィックらは5kmのロードレースで実験を行いました。
被験者はごく普通のアマチュアランナーであり、最初の1マイル(1.6km)を以下の3種類のペースでそれぞれ走りました。
- 自己ベストに合わせた安定したペースで走る
- 1の3%増しのペースで走る
- 1の6%増しのペースで走る
その結果、最初の1マイルを1番速いペースで走ったときが最も速くゴールしました。
一方、最もゴールが遅かったのは安定したペースで走ったときでした。
なお、ランニング中の酸素消費量や心拍数にペースによる違いは見られなかったといいます。
研究結果は世界記録とも一致
先程の研究結果は、世界記録とも一致しています。
南アフリカ ケープタウン大学 ロス・タッカーらは、5000mと10000mのトラック競技(男子)の過去の世界記録をすべて分析しました。
すると、記録には一貫した傾向が見られたといいます。
ほとんどの世界記録は、ペースはスタート時が速く、レース中盤になるにつれて徐々に遅くなり、ラストで再び速くなっていたというのです。
なんと分析対象とした64件のうち、63件は最初と最後が1番速かったといいます。
唯一の例外
唯一の例外が、1997年 ポール・テルガト選手が出した10000mの世界記録です。
9km地点のラップが10km地点よりも1秒速かったといいます。
ジョシュア・チェプテゲイ選手の世界記録
さらに、2020年には5000mと10000mの世界記録が、ジョシュア・チェプテゲイ選手(ウガンダ)によって更新されました。
それぞれのラップタイムは、以下のとおりです。
ラップタイムを見るとほぼイーブンペースですが、やはりラストでペースが上がっています。
また、5000mの4km通過や10000mの7km通過など、精神的にも肉体的にも最もキツいところでペースを上げられるのは、チェプテゲイ選手の強みだと言えるでしょう。
ちなみに日本記録は…
5000m 13‘08“40(大迫傑 選手)
10000m 27’18”75(相澤晃 選手)
一方、このペース配分はチェプテゲイ選手だからこそ実現できたとも言えます。
先述のとおり、過去の世界記録のほとんどはイーブンペースではありません。まずは「最初にペースを上げて走る」方法を試してみましょう。
最初にペースを上げることが必勝法ではない
ただし、必ずしも最初にペースを上げることが必勝法になるというわけではありません。
なぜなら、積極的なレースをするためにはある程度のレース経験が必要だからです。
タッカーらの研究によると、最後にペースが上がるのはレース中に予測して調整しているためだといいいます。
余力を残してゴールするために、意識的あるいは無意識的に調整を行なっているというのです。
そのため、積極的なレース戦略を採るためにはレース経験が不可欠だといいます。
なぜなら、脳には終わりがいつ来るのかを見極めるための判断材料が必要となるからです。
「目標の予知」がもたらす影響力
目標の予知とは、「あとどれくらいで終わるのか?ゴールまでどれくらいか?」を認識していることを指します。
つまり、「目標の予知」=「レース経験」とも言えるでしょう。
目標の予知は、レースにおける疲労感と関係があると言われています。
「目標の予知」と疲労感の関係
1980年の研究に目標の予知と疲労感の関係を示す研究があります。
被験者は以下の2グループに分けられ、トレッドミルを走りました。
- 20分間走る予定のグループ
- 30分間走る予定のグループ
ですが、この実験ではどちらのグループも20分経過時点でトレッドミルを停止させました。
そして、各グループの疲労感を計測したところ、違いが見られたといいます。
30分間走る予定だったグループは、20分間走る予定のグループに比べ、疲れの感じ方を示す数値がかなり低かったのです。
つまり、この結果は予測終了時間(目標の予知)と疲労感は関係しているということを示しています。
この結果からも、積極的なレース戦略を採るためには、ある程度のレース経験が必要であることが分かります。
「ゴールまで体力がどれくらい持つか?」を脳が把握できていないと、最初にペースを上げることを躊躇してしまうからです。
実例:初めて14分台を出したレースのラップタイム
とはいえ、参考例が世界記録だとやや現実味が無いと感じる方もいるかと思います。
そこで、実際に僕自身が初めて14分台を出したレースのラップタイム(1kmごと)を紹介したいと思います。
僕の場合、確かに最初の1kmとラストの1kmのラップタイムが速いですが、やや後半に体力を温存している傾向が見られました。
ただ、個人的な感想にはなりますが、最初の1kmをスローペースで入ってしまうと後半で取り戻すのは精神的にもなかなか難しいと感じています。
ちなみに、5000m14分台を出すまでに行ったトレーニングメニューについてはこちらの記事でご紹介しています。
まとめ:序盤のペースを少し上げて自己ベスト更新を狙おう
長距離走における最適なレースペースについて、まとめると以下の通りです。
もちろん、ペース配分に正解は無いと思います。
ですが、「序盤にペースを上げた方が自己ベストが出やすい」という傾向があるのも事実です。
記録会などで試してみる価値はあると思いますし、そうした試行錯誤のなかで自分に最適なペース配分も見つかると思います。
まずは、自己ベストのラップタイムを振り返ってみるのも良いかもしれません。
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